生成AIで新規事業を、と言われたあなたへ

上司から「生成AIで新規事業、頼むね」と言われたとき、最初にやるべきことはツール選びでも派手なデモでもありません。いちばん大事なのは、「どこで勝つか」を先に決めることです。社内の作業を賢くしてコストを下げるのか、既存事業の運用をAIで強化して粗利を上げるのか、まったく新しい体験をつくるのか。どれも正解になり得ますが、まずは一本に絞って短いサイクルで価値を検証していくと、前に進む速度が一気に上がります。

はじめの一歩は「どこで勝つか」

最初の二週間は、現場の一日を一緒に歩くのがおすすめです。メール返信、資料検索、報告書づくり、意思決定のための下調べ。実はどの仕事も、入力が来て、意味を解釈し、どうするか決めて、外に出力する、という同じ流れで動いています。この流れのどこで手が止まっているのかを観察し、AIが“下書き”“要約”“候補出し”の軽い部分を先に引き受け、人は“意図の決定”と“最終責任”に集中できるように分担を設計します。ここを丁寧にやると、その後の開発が驚くほどスムーズになります。

技術の芯はシンプルに

現実的で強い設計は、私有データをきちんと整えて必要な文脈だけを取り出し、モデルに渡すことです。いわゆるRAGの考え方ですが、本質は「根拠と一緒に答える」ことにあります。そして、人がワンクリックで「良い／悪い」と理由を残せる仕組みを最初から組み込み、次の改善に確実につなげます。これが“学習の速さ”を生み、真似されにくい堀になります。法務やセキュリティも、最初から三点だけは固定しましょう。出力の根拠を必ず残すこと、個人情報は送る前にマスクすること、そして入出力とモデルのバージョンをログで再現できるようにすること。この三つがあるだけで、安心して前に進めます。

現場の仕事は「入力→解釈→決定→出力」

観察のときは、この四段階でボトルネックを言語化します。たとえば、入力の段で情報が散らばっているなら集約と前処理を先に、解釈の段で迷子になるなら要約とタグ付けを、決定の段で手が止まるなら選択肢の比較提示を、出力の段で時間がかかるならテンプレ化と差分編集を、という具合に対処の順番が見えてきます。

九十日で形にする

最初の二週間で、困りごとと計測のものさしを決めます。何分短くなると価値があるのか、一次回答の正答率はいま何％なのか、基準を先に持つだけで、あとから迷いません。次の二週間は、人の隣で動く小さな試作を作ります。十数件のデータでも構いません。根拠を添えて答え、間違ったらすぐ直せる動線を先に整えます。一〜二か月目には、社内の10〜50人に実際に使ってもらい、どれくらい速くなったか、安くなったか、正しくなったかを日々見える化します。三か月目には、権限と監査、アラート、料金の見立てまで整え、いつでも広げられる状態をつくりましょう。

計測のものさしを先に決める

“良くなった気がする”では広げられません。リードタイム、一次正答率、再作業率、満足度。このあたりを最初に一度だけ計測しておくと、改善の手応えがクリアに伝わります。

お金と体験のつくり方

一回の処理にいくらかかるかは、入出力のトークン、検索の回数、外部APIの課金で決まります。よくある質問や似た入力はキャッシュして、同じ答えを賢く使い回すだけで原価が下がります。体験面では、返答を少しずつストリーミング表示するだけで待ち時間のストレスが大きく減ります。フロントエンドでは“差分編集”のUIにして、AIの提案に人が加えた修正がどこか一目でわかるようにすると、品質の学習が早く回り、チームの信頼も得やすくなります。

すぐ効く現場の使いどころ

どんな領域でも最初の一手は似ています。営業なら、過去のやり取りから要点を要約して提案の下書きを作り、想定問答を添えます。サポートなら、問い合わせを自動で分類して優先度をつけ、一次の定型返信を下書きします。社内ナレッジなら、根拠のリンクと一緒に回答を返し、外れたときは人が直して理由を残します。小さく始めて、現場の“直し方”ごと育てるのが、いちばんの近道です。

最後に自分へ問うこと

締めくくりに、五つの問いを持っておきましょう。誰の何分を、いつまでにどれくらい短くするのか。外したときは誰がどうリカバーし、どんなログが残るのか。どの私有データを使い、どう更新し続けるのか。一回あたりの原価はいくらで、粗利と両立できているのか。そして、ユーザーは本当に“楽になった”と感じているのか。ここまで言語化できれば、もう勝ち筋は見えています。派手さより、毎日少しずつ確実に良くなる仕組みを。生成AIの新規事業は、その積み重ねで強くなります。